生成AI時代の「声の権利」とは?日本俳優連合がガイドラインを発表

生成AIの登場によって、声優や俳優の声を再現する技術が進化しています。本人の許可なく声が利用される問題も浮上するなか、2026年10月15日、日本俳優連合(日俳連)が「音声に関する生成AI利用ガイドライン」を発表しました。

AIが人間の声を再現できる時代に、声の持ち主の権利はどう守られるべきなのでしょうか。ガイドラインの内容から、声と仕事、そして表現の未来について考えます。

本人の知らないところで声が使われる時代に

テキストを入力するだけで、実在する人物にそっくりな声を生成できる音声クローン技術。外国語の音声を別の言語に変換するAI吹き替えなど、生成AIは音声コンテンツの制作にも活用されています。

その一方で、インターネット上に公開された音声が本人の許可なく収集・学習され、本人に酷似した合成音声が生成される問題も起きています。こうした音声が商業利用されたり、本人の意図しない発言をする動画に使われたりすることも懸念されています。

声優や俳優にとって、声は単なる「音」ではありません。長年の訓練や経験によって培われた表現手段であり、仕事を支える大切な資産です。

声の利用は「学習・生成・公開」の各段階で同意が必要

今回のガイドラインで重要なのが、AIによる音声利用を一つの行為として扱うのではなく、段階ごとに整理している点です。

AIによる音声利用には、大きく分けて次の3つの段階があります。

  • 学習: 音声データをAIに学習させる
  • 生成: 学習したデータなどをもとに、合成音声を作る
  • 公開・利用: 生成した音声を作品やサービスなどで使用する

それぞれの段階で利用目的を明示したうえで、対象となる実演家本人から事前に許諾を得ることを求めています。つまり、過去の出演作品などから音声を収集してAIに学習させたからといって、その声を使った新たな音声を自由に生成・公開できるわけではありません。

声の持ち主がどのような目的で、どこまで自分の声を利用されるのかを把握し、判断できるようにすることが狙いです。

本人のイメージや信念に反する発言をさせるなど、意図しない形で声が使われるリスクを抑えることにもつながります。

同意の期間や契約、報酬にもルールを設定

ガイドラインでは、許諾を得ること以外に、契約のあり方や対価についても考え方を示しています。

AIによる音声利用では、一度同意すれば将来にわたって無制限に使用できるという契約ではなく、同意期間を原則として最長1年とする考え方も示されています。また、AIによって生成された音声の利用について、実演家への適切な報酬が支払われるべきだとしています。

これまでの出演料とは別に、AI音声の利用実績や範囲に応じた対価を検討することで、声を提供する側が正当に評価される仕組みを目指しています。AI技術を活用する企業にとっても、利用条件や報酬の考え方が明確になれば、契約時のトラブルを防ぎ、実演家や所属事務所と合意形成を進めやすくなるでしょう。

ただし、このガイドラインは業界に向けた指針であり、法律と同じ効力を持つわけではありません。実際の利用にあたっては、契約内容や関係する法令なども確認する必要があります。

AI吹き替えや多言語化はどこまで認められる?

生成AIの活用が期待される分野の一つが、映画やドラマ、アニメなどの多言語化です。

AIを使えば、オリジナルの演技の雰囲気を保ちながら、別の言語で音声を生成できる可能性があります。海外向けのコンテンツ制作を効率化し、作品をより多くの人に届ける手段としても注目されています。言語が変われば言葉のニュアンスや感情の伝わり方も変わる可能性があります。

演技には、声の高さや話す速さだけでなく、間の取り方や感情の込め方など、さまざまな要素が含まれているため、AIによる多言語化についても、実演家の許諾や演技の同一性や利用範囲に配慮する考え方を示しています。

技術的に音声を変換できることと、作品の表現として適切であることは別の問題です。AIを活用する場合も、誰の演技を、どのような目的で、どの範囲まで利用するのかを丁寧に検討することが求められます。

故人の声をAIで再現することは?

AIによって、すでに亡くなった俳優や声優の声を再現することも技術的には可能になりつつあります。

過去の名演を新たな作品に生かしたいと考える人がいる一方、本人が望んでいない形で声を再現することへの懸念もあります。故人の声は、単に再現できればよいというものではありません。ガイドラインでは、亡くなった実演家の声をAIで生成する場合についても取り上げ、生前の本人の意思や、権利を引き継ぐ遺族・管理者などの許諾を重視しています。

技術の進歩に合わせて、故人の尊厳や遺族の思いにも配慮したルールづくりが必要です。

AIは人間の仕事を奪う?それとも新たな可能性を生む?

生成AIの進化は、声優や俳優の仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。

AIによる音声生成や吹き替えが広がれば、これまで人間が担ってきた仕事の一部が置き換えられる可能性がありますが、本人の声を適切にライセンスすることで、新たな収益や表現の機会が生まれる可能性もあります。

重要なのは、AIを使うか使わないかという二者択一だけで考えないことです。技術を活用するのであれば、声の持ち主が利用条件を理解し、自分の意思で判断できること。そして、声を提供する人が正当な対価を受け取れることが欠かせません。

声を再現できる技術が進化しても、その声に込められた経験や感情、表現までをどう扱うべきかという問いは残ります。AIと人間が共存する時代だからこそ、技術の可能性だけでなく、声を生み出してきた人の権利や尊厳についても考えていく必要があるのではないでしょうか。


※参考:協同組合 日本俳優連合「音声に関する生成AI利用ガイドライン」(2026年10月15日)

ハラカズコ

メディアライター

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